【国際法序論その3】「外交特権」について

1 前回のおさらい

前回は、国家として他国から認められるためには、国家承認がなされる必要があること、国家承認には、明示の承認と黙示の承認の2種類の方法があることを解説いたしました。

2 国家と国家の関係性

第1回で、ある地域が、「国家」とされるためには、ほかの「国家」とされる地域から独立している(支配されていない)ことが必要であると解説しました。

国家がほかの国家から独立していることの顕れとして、「外交特権」というものがあります。

外交特権について、外交官を例に見てみましょう。

3 外交官が有している特権の例

外交官については、外交関係に関するウィーン条約1条(e)において、「使節団の長又は使節団の外交職員をいう」(「外交関係に関するウィーン条約及び紛争の義務的解決選択議定書」(外務省ホームページ:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S39(2)-0335_1.pdf))と定められています。

そして、使節団の任務として、同条約3条1項(a)において、「接受国において派遣国を代表すること」(外務省ホームページ:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S39(2)-0335_1.pdf))が定められています。

「接受国」は、使節団を受け入れる国のことで、「派遣国」は、使節団を送り出す国のことです。

そうすると、使節団の長又は使節団の外交職員(=外交官)は、接受国において、派遣国を代表するために、送り出されているということになります。

外交官は、ある種、派遣国そのものであるともいえるのです。

万一、日本に派遣された「甲国」という国の外交官が何らかの犯罪を行ってしまったと疑われている(そして、その外交官は、現に犯罪を行っている)とします。※この場合、接受国が日本で、派遣国が甲国です。

この甲国の外交官については、仮に、日本の刑事訴訟法に定められている逮捕の要件が備わっていたとしても、逮捕することはできません。

起訴することも、裁判で有罪判決を言い渡して刑罰を与えることもできません。

なぜなら、甲国の外交官は、甲国を代表して日本に来ているからです。

もし、日本の法律で甲国の外交官を逮捕したり、裁いたりすれば、それは、日本という国が、甲国を日本の法律で従わせることと同じです。

甲国は、独立した国家として、ほかの国(勿論、日本も含みます。)から支配されない状態でなければなりません。

甲国が独立した状態であるようにするために、甲国の外交官を逮捕することも、裁判にかけることもできないのです。

外交関係に関するウィーン条約29条にも、「外交官の身体は不可侵とする。外交官は、いかなる方法によつても抑留し又は拘禁することができない。(後略)」と定められています(「外交関係に関するウィーン条約及び紛争の義務的解決選択議定書」(外務省ホームページ:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S39(2)-0335_1.pdf))。

4 では、接受国の独立はどう守られるのか?

上の例に関しては、日本も独立しているのですから、甲国に対して、何も対抗できないというのは不平等ですよね?

こういった場合、日本は、甲国に対し、犯罪を行った甲国の外交官が「ペルソナ・ノン・グラータ(ラテン語で「好ましからざる人物」という意味です。)」であることを通告することができます(厳密にいえば、ペルソナ・ノン・グラータはいつでも理由なく通告できます(外交関係に関するウィーン条約9条1項)(「外交関係に関するウィーン条約及び紛争の義務的解決選択議定書」(外務省ホームページ:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S39(2)-0335_1.pdf))。これも、国家が独立していることから、どこの国家の使節団を受け入れるかどうかを自由に決められることの顕れです。)

外交官がペルソナ・ノン・グラータであると通告された場合、通告された派遣国(上の例では、甲国)は、その外交官を召喚するか、任務を終了させるかしなければなりません(外交関係に関するウィーン条約9条1項)(「外交関係に関するウィーン条約及び紛争の義務的解決選択議定書」(外務省ホームページ:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S39(2)-0335_1.pdf))。

4 まとめ

このようにして、外交特権や、これに対する対抗措置が認められています。

これまで、国家、国家承認、外交特権について概説をしてきました。

国際法のごく基本的なところをかいつまんで説明しましたが、興味を持っていただければ幸いです。

ご覧いただきありがとうございました。

 

 

関連記事

  1. 【国際法序論その2】「国家承認」について

  2. 【国際法序論その1】「国家」について