■はじめに
商品やサービスの宣伝広告は、消費者に商品の良さを知ってもらい、より快適な生活を手に入れてもらうことに資するものといえます。
ですが一方で、広告の内容が正確でないと、消費者が商品に対する誤った認識をもったまま購入することとなり、かえって不利益を被ることになります。
宣伝広告に対する規制について、最近では、インフルエンサーによる“ステルス広告”が話題となっていますが、古くからある広告規制についても、より厳格な取り締まりが行われる傾向になることも予想されます。
この記事では、有料老人ホームの広告において特に注意すべき点について、概要をまとめています。
■「有料老人ホーム」
広告規制の対象となる「有料老人ホーム」とは、高齢者に対する居住空間のほか、食事の提供といった日常生活に必要な各種サービスを一体的に提供するものを指します。
有料老人ホームに入居する場合には、入居期間が長期間に亘るため、入居者の状態によって受けるべきサービスの内容が変動したり、また、費用が高額であったりします。
このようなことから、入居に際して契約の内容を十分に理解してもらう必要性が特に高いといえるため、消費者が契約の内容を誤って認識してしまわないよう、広告の表示について一定の規制がなされています。
■規制の対象となる表示
では、どのような表示が、規制の対象となるのでしょうか。
以下、有料老人ホームに入居する際に特に重要と思われる事項について、規制の対象とされる表示をいくつか挙げてみます。
- 介護職員等の表示
入居者が最も多く接するのは介護職員となります。
特に、入居者の数に対して、十分な介護職員が確保されているかどうかという点は、安全面の観点から入居者等の関心事項となります。
このため、決められた計算方法により算出される介護職員等の数、夜間における最小の職員数などを明記する必要があります。 - 施設の構造・仕様について
例えば「バリアフリー」といった構造・仕様について、老人ホーム全体において用いられているわけではない場合には、その旨が明記されなければなりません。 - 医療機関との提携・協力関係
老人ホームに入居される方やそのご親族にとって、医療的サポート体制の充実は入居先を決めるうえでの重要事項となります。
このため、医療機関との協力関係については、医療機関の名称、診療科目等の内容、入居者が負担すべき費用について明記する必要があります。
以上のほかにも、入居者が入居当初の居室から他の居室に移動しなければならない場合があること、「終身介護」の具体的な内容、介護保険給付の対象とならない介護サービスに関する費用といった事項についても、入居者に誤解を招かないよう明瞭に記載しておく必要があります。
■さいごに
広告規制が消費者の誤認を防ぐための制度であることから、規制に違反した広告により入居者を募ることは、消費者を蔑ろにする事業者の姿勢をアピールすることになりかねません。
このため規制に違反する表示により広告をうっている事業者は、消費者からその信用を疑われ、結果的に入居希望者が皆無という事態に陥りかねないといえます。
場合によっては、消費者庁による措置命令や課徴金納付命令といった行政罰を受ける可能性もありますし、契約の重要な部分について誤認を招いた場合には入居契約を解除されてしまう可能性もあります。
ネット広告、チラシやパンフレット、雑誌などに有料老人ホームの広告を掲載する場合には、事前に、表示の内容に規制違反がないか十分に確認されることを強く推奨します。