【連載】2021年航空法改正後のドローン・ビジネス法務-第6回:農薬散布に及ぼす影響

■ はじめに

『連載:2021年航空法改正によるドローン・ビジネス法務』の第1回,第2回を通じて,2021年航空法改正について具体的にどのような点が改正されたのかについて解説しています。
第3回以降は,ドローンが利活用される個別具体的なビジネスについて,航空法改正が及ぼす影響について説明を加えています。

第6回目となる本記事では,ドローンなどの無人航空機を利用した「農薬散布」ビジネスについて解説します。

■ ドローン(無人航空機)による「農薬散布」事業

近年,農業界においては,人手不足の問題への対策・生産性の向上といった観点から,農薬の散布にドローンを利活用する傾向があります。
また,農地におけるドローンの活用法として,農薬散布の他,作物の生育状況や害虫の発生状況といった栽培管理,鳥獣被害対策といった点も考えられます。

そこで,ドローンによる農薬散布を例にとり,2021年航空法改正が測量ビジネスに及ぼし得る影響について簡単に説明します。

●隣接地にビニールハウスや電柱が設置されているケース

農地といえば建物等が無い広大な土地を想像されるかもしれません。
ですが,農地にも農家さんが住む家がありますし,電気を通すための電柱や電線,作物を育てるためにビニールハウスといった物が存在するケースが多々あります。
このようなケースでは,電柱や電線,お隣の農家さんが設置したビニールハウスから30mと離れていない場所で,ドローンによる農薬散布をしなければならないことになります。

本連載の第1回,第2回のおさらいですが,「特定飛行」とはどういった飛行を指すのでしたでしょうか。
「特定飛行」には,「(人や物から)」から30m未満の場所を飛行する方法が含まれています。

「特定飛行」の具体的内容については,こちらの記事でご確認ください。

そうすると,改正前の航空法下では,国土交通大臣の承認を要していたということになります。
ですが,改正後の航空法下においては,ドローンの機体認証及び操縦ライセンス,運行ルールといった一定の条件を充たす場合には,国土交通大臣の承認を個別に得る必要がなくなっています。

このように,航空法が改正されたことで,一定の条件下では,国土交通大臣の承認を得る必要がなくなりました。
※ただし,これは「(人や物から)30m未満」の場所を飛行するという点については,一定の条件下で承認を要しないという意味です。「農薬を散布する」という点については,以下のとおり国土交通大臣の承認を要しますのでご留意ください。

●「農薬散布」に対する航空法の規制

今回,農薬散布にドローンを利用する場合について解説しています。

農薬を散布するということは、ドローンに搭載した農薬を農地において投下することになります。

農薬の投下が,航空法で規定されている「特定飛行」のうち”物件の投下”に該当するか否かは議論の余地がありますが,国交省では該当するという立場をとっています。

つまり,ドローンで農薬を散布することは,原則として航空法で規制されている「特定飛行」に該当するため,国土交通大臣の承認を得なければ実施できないということとなります。

では,改正航空法で例外が設けられているでしょうか。

答えは残念ながら「否」です。
改正航空法において,操縦ライセンス等を得ておくことで個別の飛行毎に承諾を得なくてもよいとされたのは,以下の「特定飛行」に限定されています。

<飛行空域>
「DID」(人口集中地区)
<飛行方法>
「夜間」
「目視外」
「(人や物から)30m未満」

したがって,ドローンを使って農薬を散布する場合には,改正前の航空法下での運用と同様に国土交通大臣の承諾を得る必要があります。

■ まとめ

2021年航空法改正によっても,農薬散布を行う場合には国土交通大臣の承認を得る必要があります。

他方で,農薬の散布などを行わない場合には,例え近隣に電柱やビニールハウス等が設置される場合であっても,操縦ライセンスを保有している等の一定の条件を充たせば国土交通大臣の承認を要しないこととなります。

なお,害虫駆除のため散布する農薬に毒薬等が含まれている場合には「危険物」を輸送する飛行となるため,危険物を輸送することについても国土交通大臣の承諾を得る必要がありますのでご留意ください。

 


執筆者: 弁護士 内藤皓太

 

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