【国際法序論その1】「国家」について

1 はじめに

今回から、3回に分けて、国際法の序論として、国際法に関する概説をいたします。

「国家」、「国家承認」、「外交特権」の順に大枠を説明いたします。

2 「国家」とは何か。

国際法に関して記載した本を見ると、多くの書籍が、「国家」とは何かを定義づけるところから始めています。

これは、国際法が、国と国との約束ごとに関する「条約」等の決め事を対象とする学問領域であるため、まずは、「国(国家)」とは何かを理解する必要があることに起因するものと思われます。

私も、国際法序論としての概説を行うにあたり、いささか哲学的であるように感じられますが、「国家」とは何かを説明いたします。

私の手元の高校地理の教科書には、「国家が成立するためには、主権・領域・国民が必要である。」(帝国書院「新詳地理B」片平博文ら・213頁(平成28年3月18日文部科学省検定済))と記載されています。

国際法上は、これらに加え、「他の国と関係性を構築できる能力」も要求されています(国の権利及び義務に関する条約1条参照)。

国際法の基本書(教科書)においては、「永続的住民、一定の領土、政府、他国との関係を取り結ぶ能力の四つの要素が必要である」(「現代国際法講義第4版」杉原高嶺ら・37頁)と記載されています。

すなわち、「国家」であるためには、(永続的な)国民、(一定の)領域、主権(=政府)が必要であり、他の国家と関係性を作ることができる必要があるのです。

これらについて、若干詳しく見ていきます。

①(永続的)国民

国家に国民が必要であるというのは、考えとしてごく自然なことと思います。

誰も住んでいない地域が、国家として独立して活動することや他国と関係することはおよそあり得ないでしょう。

ここで、注意すべき点は、「国民」というものが単に領域上で生活している人を指すのではなく、永続的住民であることが必要とされているということです。

つまり、簡単に国民でなくなったり、国民になったりすることができる方を国民とすることはできず、長きにわたり、その地上で暮らす権限を持っている人(多くの場合、国籍を有している人と一致するでしょう。)が国民となることができるのです。

②(一定の)領域

領域が国家のために必須であることもご理解いただけると思います。

そもそも、土地がなければ、国民が住むことができず、国家として体をなすことができなくなってしまいます。

領域については、土地(=領土)、土地の境界から一定程度の範囲までの海域(=領海)、土地及び海の上の空間(=領空)を指すものとお考え下さい。

領土は、文字通り、私たちが生活している地上を指します。

海岸の低潮線(最も潮が引いているときの海岸線)から12海里の範囲の海が領海です。

そして、領土と領海の上空が領空です。

これらを合わせて、領域といいますが、領土、領海、領空は、日によってその範囲が広くなったり狭くなったりするということはありません。いつでも、同じ範囲が領域として存在するのです。「一定の」と冠されるのはそのためです。

③主権(=政府)

主権という概念は、相応に広い概念です。ここでいう「主権」とは、「日本が国民主権の国家である。」といった場合の「主権」という概念とは、違う意味を持っています。

国際法上の「主権」とは、ある地域やそこに所在する方々を「支配する」ことができている(=実効的な支配ができている「政府」が存在している)ことを意味するものであって、国家の行く末を決するのが国民であるという意味での「主権」とは違う意味なのです。

④他国との関係を取り結ぶ能力

少し難しい概念ですが、ある地域が、「国家」とされるためには、ほかの「国家」とされる地域から独立している(支配されていない)ことが必要です。

他の国と対等であることは「国家」であることの必須の条件であるといえるのです。

対等であるからこそ、他国との関係を結ぶことができるのであって、これらは表裏一体の関係であるといえます。

3 国家はどのようにして、他国から認められるのか

「国家」の条件について解説をいたしましたが、国家が成立した場合、どのようにして、他国から国家として認められるのでしょうか。

これは、「国家承認」という問題として、次回解説をいたします。

 

 

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