【連載】キャッシュレス決済―第3回:割賦販売

■ はじめに

本連載では、「キャッシュレス決済」に関する法令について解説しています。
弁護士Aが日常業務において遭遇した法的問題を解決するという設定で解説していますので、関連法令に関する知識だけでなく、法的思考についても参考としていただけると幸いです。

今回は、エステサロン経営を題材として、割賦販売法の適用事例について取り扱います。

■ ストーリー

弁護士Aは研修時代に知り合った方から、エステサロン経営に関わる法務について相談がしたいと話を持ち掛けられていました。

相談日の当日、相談者Zからは、以下のようなシステムでエステサロン事業を始める予定だと聞きました。

① 脱毛やフェイシャル・ボディエステを中心とした総合エステサロンを展開する
② 料金は、各コースで施術部位と実施回数で区別して設定することとし、複数回の利用料金を支払ってもらう場合には1回あたりの施術料が割安となるように料金設定を行う予定
③ 施術コースと利用回数によっては30万円を超える費用を要するものもあるため、分割払いに対応する予定
④ 支払はクレジットカード対応かつローン対応

そこで弁護士Aは、まず、分割払いに関する法規制について説明をすることにしました。

■ 「割賦販売法」の規制対象とエステ

割賦販売法では、

① 割賦販売業者が
②(割賦販売法で定める)「商品」や「権利」や「役務」を
③(割賦販売法で定める)「割賦販売」の方法で販売・提供する場合
に、消費者を保護するための規制が設けられています。

そこで、
(論点1:)相談者Zが想定しているサービスが割賦販売法で想定されている「権利」や「役務」に該当するのか
(論点2:)相談者Zが想定する分割払いが割賦販売法で規制される「方法」にあたるか
について検討する必要があります。

■ 「役務」とエステサロンについて

⑴ 割賦販売法の規程

割賦販売法とこれに基づく割賦販売法施行令は、同法で規制する商品や役務などを「指定商品」、「指定権利」、「指定役務」として規定しています(法2条第5項、施行令1条第1項乃至第3項)。

特に、相談者Zの“エステサロン”との関係では、

一 人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、又は体重を減ずるための施術を受ける権利(次号に掲げるものを除く。)
二 人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、体重を減じ、又は歯牙を漂白するための医学的処置、手術及びその他の治療(美容を目的とするものであつて、経済産業省令・内閣府令で定める方法によるものに限る。別表第一の三第二号において同じ。)を受ける権利

が重要です。(割賦販売法施行令別表第一の二)

※上記は「特定権利」の規程です。「特定役務」は割賦販売法施行令別表第一の三に規定されています。条文はほぼ同一文言ですので割愛します。

⑵ エステティックと美容医療の違い

前述した規定は、いわゆる「エステティック」か「美容医療」かの違いです。

具体的な違いは、役務の提供にあたり“医療行為”を伴うかどうかという点にありますが、その治療方法は、治療目的毎に以下のとおり規定されています(割賦販売法施行規則第142条)。

 

① 脱毛→光の照射又は針を通じて電気を流すことによる方法

② にきび、しみ、そばかす、ほくろ、入れ墨その他の皮膚に付着しているものの除去又は皮膚の活性化→光若しくは音波の照射、薬剤の使用又は機器を用いた刺激による方法

③ 皮膚のしわ又はたるみの症状の軽減→薬剤の使用又は糸の挿入による方法

④ 脂肪の減少→光若しくは音波の照射、薬剤の使用又は機器を用いた刺激による方法

⑤ 歯牙の漂白→歯牙の漂白剤の塗布による方法

ただし、「→」は筆者が追記したものです。

⑶ 相談者Zの事業への適用

相談者Zが開業を予定しているサロンでは、「脱毛」「しみとり」を目的として、巷で話題となっている美容機器(いずれも光を照射する機器)を導入する予定でした。
このため、Zが想定していた施術内容は、上記①や②に規定された美容医療に該当する可能性があるということで、後日、詳しく調査をした上でZへ報告することになりました。

すくなくとも、Zが提供するサービスは、いわゆるエステティックに該当するため、割賦販売法で規制の対象とされる「指定権利」「指定役務」に該当することが明確になりました。

■ まとめ

●割賦販売法の規制対象とされる「指定商品」「指定権利」「指定役務」は、割賦販売法施行令の別表にまとめられている

●エステサロンを開業するにあたっては、提供するサービスが「エステティック」と「美容医療」のいずれに該当するものなのか注意する

次回は、Zが提供するサービスが指定権利あるいは指定役務に該当することを前提に、料金の回収方法が割賦販売法の規制対象となるかどうかについて検討します。


執筆者: 弁護士 内藤皓太

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